大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和29年(う)2910号 判決

被告人 内藤正則

〔抄 録〕

記録ないし証拠及び当審事実取調の結果によれば、本件農道復旧工事の施行は、元々、吉浜町の直営とすべきところ財政不如意等の理由から、足柄下郡吉浜町鍛治屋農業協同組合を事業主体とし、同組合において国又は県の工事費補助金の交付を得てこれを行つたものであり、これが補助金の交付を受けるについての事務一切(復旧事業計画書の作成、工事費の予算査定、工事の完了届、補助金の交付申請ないしは請求、復旧収支決算書の作成事務等)は、神奈川県農地部の指導でその関係者(足柄地方事務所ないしは右組合から補助金交付事務の一切を委託された神奈川県耕地協会小田原支部及び吉浜町)の行うところに一任され、同関係者等は、昭和二十三年九月アイオン台風により本件農道が破壊された当時右組合長から提出された復旧事業計画書(これもその実、足柄地方事務所ないしは前示耕地協会小田原支部のいずれかにおいて作成されたものであることが明らかである)による査定工事費額四十五万円の金額(これが金額については工事施行前から関係当局において当然工事施行に要すべき金額と認められていたばかりでなく、工事施行の結果も、これが金額に相応する出来上りのものであつたことは、足柄下地方事務所農地課長三平実、神奈川県耕地課災害係長西口末郎及び本件工事の施行中終始現場監督として立会の任に当つた足柄上地方事務所技術吏員隅田昭等の原審公廷における証言によつて認められる)は、これを終始動かさないものとし、これを基準として右組合のため補助金交付の手続事務一切を機械的に取り運んだもので、現実に補助金を交付するについて為した関係当局(前示三平実)の出来型並びに出納検査に際して検査したことになつている吉浜町備付の帳簿の記載も、果して如何なる内容のものであつたかは当該帳簿が存在しないので確認するに由はないが、同町役場吏員において敢て工事施行の責任者であつた被告人に工事施行の現実の収支結果を徴するまでもなく、単に事務的に最初の前示事業計画書による査定額を基準として国の六割五分、神奈川県の五分の補助率に従いこれを作成したものにすぎないものであることが窺われ、被告人は、ただ同工事の受益者側の代表者として工事の一切を施行した上右組合から右補助金に該当する金員の交付を受けたというにすぎず、被告人は右工事を施行するについて、本件補助金の使途につき、その当初から受益者たる農民の犠牲的労力提供その他によつて極力費用を節約し、残余あれば受益者農民二十数名の承諾を経て同農民等のため公正にこれを費消するも何等支障なきものと信じて居たもので、(現に本件工事は、受益者農民等の異常な労力の提供及び沿道土地の無償提供等その他幾多の犠牲において完成され、その結果補助金中金七万円余を余すに至り、これが金員については関係農民達の協議を経て将来の農道修理の費用として保管されていたものであることが明らかであつて、若し右のような犠牲なく通常の使途方法に従うときは右七万余円も当然費消されたものであることが推測される)被告人が、本件補助金に該当する金員を前記組合から受け取つたことは、いわば工事施行の請負代金を受け取つたものということもでき、右組合ないしは被告人が、本件補助金の交付を受けるについて自ら被告人において原判示でいつているように、敢て自らこれが補助金を騙取しようとして原判示欺罔手段に加工し、或はその関係者と共謀した事実は、記録及び証拠上到底確認するに由がない。本件は、寧ろ前記地方事務所耕地協会小田原支部等の補助金交付手続の運び方や、事業主体関係者に対する指導運営においてその当を欠くもののあつた結果に起因する行政上の不始末であるというべく、被告人において詐欺の罪に問われるべきかぎりではない。

(三宅 河原 遠藤)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!